更新日20001201

古 典 講 読 III

〔講義目的〕
 延長五年(972)に撰進された『延喜式』巻八所収の二十七篇の「祝詞」は、神道の祭祀の本質を考え、また古代の神祇信仰を知る上で重要な古典である。また、古典祝詞の慣用句の習得は、「祝詞作文」の前提ともなる。
 本講読では、この延喜式祝詞のうち、祝詞の古い姿を残していると考えられる「祈年祭」「大殿祭」「御門祭」「六月晦大祓」「出雲国造神賀詞」及び平安時代末期の藤原頼長の日記『台記別記』所収の「中臣寿詞」を講読する。まず祝詞の研究史、語義、文体を概説する。次に各祝詞が宣読あるいは奏上される祭祀に関する基本的史料に基づき、その起源及び歴史を概説した上で、各祝詞本文の構成を概観し、訓読、語釈、文脈解釈を通して、古代の祝詞の表現上の特質や祭祀の趣旨について考察する。

〔授業計画〕
(1)延喜式祝詞の研究史及び参考文献
(2)律令格式と延喜式の編纂
(3)古代日本の音韻、文体、表記(宣命書き)
(4)「のりと」の語源、語義、「祝詞」の字義
(5)延喜式巻八「祝詞」の諸本・式文の解釈
(6)「としごひのまつり」から祈年祭へ
(7)祈年祭祝詞講読(前文・宣下体祝詞の表現)
(8) 同上(御年皇神・御門神への称辞)
(9) 同上(生島神・天照大御神への称辞)
(10) 同上(御県皇神・水分皇神への称辞)
(11)祈年祭の祭旨と歴史・月次祭との関係
(12)大殿祭・御門祭の概要
(13)大殿祭祝詞の講読
(14) 同上

(15)御門祭祝詞の講読
(16)「はらへ」「みそき」と「おほはらへ」
(17)大祓詞の講読(前文・皇御孫命の降臨)
(18) 同上(天つ罪と国つ罪)
(19) 同上(祓執行の命令)
(20) 同上(罪祓除の次第)
(21)大祓詞の構造と成立過程
(22)出雲国造と神賀詞奏上の儀式
(23)出雲国造神賀詞の講読
(24)、同上
(25) 同上
(26) 同上
(27)践祚大嘗祭と天神寿詞奏上の儀式
(28)中臣寿詞の講読
(29) 同上
(30)祝詞の起源と歴史

〔評価方法〕
中間試験と期末試験を行う。筆記試験と授業中のレポート及び出席状況を総合して評価する。

〔教科書〕
『祝詞』 青木紀元編・おうふう

〔備考〕
教科書は「祝詞本文」「祝詞訓本」の二部よりなるが、講読は「祝詞本文」をテキストとして行うので、予習として「祝詞訓本」の訓を「祝詞本文」の傍に必ず転記しておくこと。


           大祓詞(現代語訳案)
 皇御孫命の降臨
 (1) 高天原に神として留まっておられる、天皇のお親しい男女の皇祖神の
 御命令によって、八百万の神々を集合させられ、神々の会議を催されて、
 「我が皇御孫の命は、豊葦原の瑞穂の国を安らかな国として平穏に御統治
 なさいませ。」とお委ね申し上げた。
 
 (2) このようにお委ね申し上げた国の中に、荒れすさんでいる神々に(な
 ぜ従わないかを)問いになり、(それでも従わない神々はその地から)追
 い払らわれ、物をいっていた岩石や樹木、それに草の一枚の葉をも物を言
 うのを止めさせて、高天原の堅固な玉座をおし放ち、天の八重にたなびく
 雲を激しい勢いでかき分けられて、(皇御孫命を)天降らしめて(天下を)
 お委ね申し上げた。
 
 天つ罪国つ罪発生の予言
 (3) このようにお委ね申し上げた四方の国の中央として、大倭日高見国
 〔大和国〕を安らかな国とお定め申し上げて、地下の岩盤に宮柱を立派に
 占め立て、大空に千木を高々と占め上げて、皇御孫命の瑞々しい御殿をご
 造営申し上げて、天や日をさえぎるお住まいとして、お篭りになられて、
 安らかな国として平穏にご統治なさる国中に生まれ出るであろう天の益人
 (立派な人)たちが過ったり、犯したりしたであろう様々な罪事は、天つ
 罪国つ罪など多くの罪があらわれ出るであろう。
 
 祓執行の命令
 (4) このようにあらわれ出るならば、高天原の宮殿で行われている儀式に
 ならって、高天原に由来する若い木の枝の本を打ち切り末を打ち断って、
 数多くの案上に置き満たして、高天原に由来する菅の葉を本を刈り断ち末
 を刈り切って、細かく裂いて、高天原に由来する立派な祝詞を宣りなさい。
 
 罪祓除の順序
 (5) このように宣るならば、天つ神は高天原の御殿の堅固な御殿の扉を
 押し開いて、天の八重にたなびく雲を激しい勢いで押し分けてお聞き届け
 下さるであろう。国つ神は高い山の頂や低い山の頂にお登りになって、高い
 山低い山の神々の仮屋をかき分けてお聞き届けくださるであろう。
 
 (6) このようにお聞き届けくださるならば、罪という罪はあるまいと、あ
 たかも科戸の風が天の八重にたなびく雲を吹き放つことのように、朝の霧、
 夕の霧を朝風夕風が吹き払うことのように、大きな港のほとりに停泊して
 いる大きな船の船首船尾の綱を解き放って、大海原に押し放つことのよう
 に、遠方の繁った木の本を、焼いて鍛錬した鋭い鎌で打ち払うことのよう
 に、漏れ残る罪はあるまいと、祓えなさり清めなさる事を、
 
 (7) 高い山の頂、低い山の頂から激しい勢いで逆巻き流れる急流の瀬にお
 いでになる瀬織津比売という神が、(たくさんの罪事を)大海原に持ち出
 してしまうであろう。このように持ち出て往くならば、遠い沖合いの幾筋
 もの潮流が流れ流れて一所に出会うところにおいでになる速開津比売とい
 う神が罪をガブガブと飲み込むでしまうであろう。このように飲み込むな
 らば、気吹で吹き払う戸口においでになる気吹戸主という神が、罪を根の
  国底の国に気吹き放ってしまうであろう。このように気吹き放つならば、
 根の国底の国においでになる速佐須良比売という神が、罪を行方も知れず
 失ってしまうであろう。このように失ってしまうならば、罪という罪はあ
 るまいと、祓えなさり清めなさる事を、天つ神、国つ神、八百萬神等共に
 お聞き届け下さいと申し上げる。
 清明なる未来の現出