各時代に2名ずつ教員を配置。
豊富な史料で「追体験」しながら
歴史を学びます。

皇學館大学の国史学科の特色から教えてください。

古代・中世・近世・近現代の各時代と、日本史と関連の深い東洋史(古代)に専任教員を配置しています。各時代に2名ずつ教員がいますので、同じ時代でもそれぞれの角度から指導が受けられる環境が国史学科の大きな特色だと思います。

学び方にも特色はありますか?

1年次から一次史料を使って自分なりの歴史像を組み立てていく授業を行っています。学生たちは、こうしたトレーニングを積み重ねて3年次からのゼミに取り組み、卒業論文の完成をめざします。段階的に歴史学の研究方法を身に付けることができます。

一次史料とは具体的にどんなものになるのですか?

政治家の書簡や日記、公文書など、歴史の当事者がその時代に書いた史料のことを一次史料と呼びます。例えば、中世なら戦国大名が書いた手紙、江戸時代なら幕府が作成した文書などですね。政治家の書簡。くずし文字で書かれている。

一次史料を読むと、まるで当時の人たちと直接話しているような感覚になりますね。

そうですね、私たちは一次史料を通して、当時の人々の生の声を聞きながら歴史学の研究ができるわけです。教科書に書かれていることを暗記するのではなく、当時の人々と史料を通して対話することで、歴史がどのように進んできたのか自分で考えていきます。例えば、伊藤博文が初代総理大臣に就任したのは何年だったとか、こうした史実は知識として知っておく必要はありますが、それよりも、このとき伊藤博文は何を思っていたのか、なぜこの決断をしたのだろうか、ということを史料から自分で考察していくのが、大学で学ぶ歴史なんですね。一次史料をたくさん読み込むと、「この人、意外と字が下手だな」「伝えたいことを丁寧に書いているな」と個性や人柄も感じられるようになり歴史上の人物がぐっと身近になる、そんなおもしろさもあります。

国史学科では、歴史を学ぶおもしろさにも出合えるわけですね。

何でも史料になるのも、歴史を学ぶおもしろさの一つです。私の専門である近代では、録音された音源や写真、絵なども史料として活用できます。非常に多様な史料から歴史を考察していく。これも、国史学科の学びの特色です。

授業で使用する教材は、とても幅広いのですね。

教員の中には、私を含め、博物館で学芸員として勤務していた経験者がいます。そのお一人である中世史の岡野友彦先生は、当時の古文書を使った授業を行い、顕微鏡でその紙の組織を調べることで、書いた人の身分や内容の重要性を考察されています。紙に書かれている内容だけではなく、史料そのものも含めて多様な観点から歴史にアプローチする。とてもおもしろいですよね。私の授業では、蓄音機を使って当時録音された政治家の演説の音源を流したり、耳で聴く史料も活用しています。戦前のポータブル蓄音機とSPレコード

歴史を体感することを大切にされているのでしょうか?

当時の人が目にしていたもの、手にしていたもの、聞いていたものを触れることにより歴史を「追体験」できるんですね。例えば、先日の私の授業では、スキャンして原寸大で印刷した伊藤博文の手紙と展開図にした封筒を配り、それを使って学生がのりとはさみで同じ大きさのレプリカを作り、手紙を開封して読むという「追体験」をしました。

まるで自分が伊藤博文からの手紙を受け取ったような気持ちになれますね。

政治家の書簡や日記は、活字化され文献として残されていますが、どういう文字を書いていたのか、どんな便箋を使っていたのかを知ると、さらに本人の人柄や思いに近づくことができます。学生たちには、こうした歴史の空気感を感じてもらいたいと思っています。

先生のご専門である「近代史」を学ぶ魅力についてお聞かせください。

近代史は、現代につながっているところがおもしろいと思います。例えば「相続税」ですが、これは日露戦争をきっかけに生まれた税なんです。当時、莫大な軍事費が必要でしたが、たばこ税や酒税を上げたり、国債を発行したりしても足りない。そこで新しく創設されたのが「相続税」だったのです。もちろんほかの要因もありましたが、こういう側面を知ると、歴史は私たちの暮らしにも身近な学問であることが感じられると思います。

史料が多く残されているのも「近代史」のおもしろさの一つですよね。

新聞、雑誌、日記、手紙、写真、音源など、あらゆるものが史料になるのが近代史の魅力です。私は最近、旧華族家の生活について調べているのですが、当時爵位を持っていた人は亡くなっていてもそのご子孫はご存命なので、当時のお話を直接伺うことができます。これは、文字に残されていない記録を当事者から聞き取り記録としてまとめる、「オーラルヒストリー」と言われる研究手法です。今はオンライン会議システムのZoomを活用して聞き取りをしています。こうした新しい研究方法で歴史を学べることも近代史のおもしろさだと思います(写真は政治家、貴族院議員などのご子孫からの聞き取り調査の様子)。

こういうお話を伺うと、学ぶことがすごくおもしろく感じられます。

学問はすごく楽しいものですよ(笑)。大学では、歴史に限らず、自分の興味のあること、調べたいこと、疑問に思うことをとことん追究できます。自分の力でどうにもならないときは、頼れる教員がたくさんいます。特に国史学科の教員は、学生との距離が近く、面倒見が良いので、どんどん質問してください。でも、答えは教えませんよ(笑)。答えは自分で見つけてほしいですから。もちろん、参考文献を教えたり、調べ方のアドバイスをしたり、答えを導くためのヒントはたくさん出していきますよ(笑)。

謎解きみたいですね(笑)。

自分で考えて、工夫して探して、答えを見つけるのが、大学の学びの醍醐味ですから。そのために、実物を見るということはとても大事なこと。ですから、私は授業のスライドで紹介した文献や関連する史料を、大学図書館に設置したコーナーで展示して本物を見てもらうようにしています。授業ではできるだけ身近な事例を取り上げたり、エピソードを紹介したり、歴史を身近に感じられるような工夫を心がけています。

国内外の歴史の舞台を訪ねる
フィールドワークも充実。
時を超え、時代の空気を肌で感じます。

国史学科の特色の一つである、教員について、もう少しお話しいただけますでしょうか。

国史学科の教員は、歴史研究の世界で活躍しています。例えば、遠藤慶太先生は講談社の『学習まんが 日本の歴史』というシリーズの監修をされていらっしゃいますし、そのほかにも三重県内の歴史関連のテレビ番組に出演したり新聞記事に取り上げられる先生がいたり、歴史学のおもしろさを伝える教育普及活動に尽力されている教員が多くいらっしゃいます。

大学が所有している豊富な史料も魅力です。

2021年4月30日からは、「皇學館大学デジタルアーカイブ」が公開されています。大学の諸機関が所蔵する皇室文化・神道・国学・文学・語学・歴史学・館史(大学史)などの文献資料を、web上で誰でも見ることができます。興味のある方は、ぜひアクセスしてください。特に、くずし字の文書と活字を重ね合わせて見ることのできるシステムはとても役立ちます。皇學館大学デジタルアーカイブ

フィールドワークについては、国史学科はどのように展開していますか?

現時点では、コロナ禍でなかなか思うような活動はできていませんが、フィールドワークは国史学科でも力を入れているプログラムです。各ゼミでさまざまな地域へ足を延ばします。一昨年になりますが、近代史・東洋史のゼミは合同で中国の西安とフフホトを訪ねました。西安では秦の始皇帝の兵馬俑を見学し、古代中国の歴史と共に文化財保護の歴史や観光への活用法を学んだり、フフホトでは戦時中の日本の傀儡(かいらい)政権について学んだり、異文化を体験しながら刺激的で貴重な時間を過ごしました。もちろん海外に行かなくても、皇學館大学の周辺には伊勢神宮や神宮徴古館をはじめ、貴重な史跡や博物館が多く点在していますし、少し足を延ばせば、奈良や京都で歴史探索もできます。歴史を日常的に身近に感じながら学べる。そんな恵まれた環境が、ここにはあります。西安で見学した兵馬俑

最後に、高校生へメッセージをお願いします。

歴史は暗記科目ではありません。歴史は、当時を生きた人々がさまざまな選択をしながら続いてきました。「なぜこの選択をしたのだろう」「この選択で歴史はどう動いたのだろう」と立ち止まって考えることにより、歴史上の出来事は、暗記するよりずっと強く記憶されます。そして、歴史上の人物は身近な存在になり、より深く理解できます。「一人ひとりの選択の結果が今につながっている」と意識することが、歴史をキワメるきっかけになると思います。皇學館大学で教科書には書かれていない事実や解釈に出会い、歴史学をとことん楽しんでください。