伊勢志摩百物語~名木・奇樹を訪ねる~
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- 2 - 宇治橋が架かる五十鈴川の流域は、大正14年策定の「神宮森林経営計画」で、神域の風致を維持する空間として、むやみな伐採や景観の変更は避けられています。橋の中央に立ち、上流を眺めると、季節により五十鈴川は緑や黄色の蒲団に包まれます。夏場の下流では、烏え帽ぼ子し岩いわ付近で水遊びをする子供たちの歓声が聞こえてきます。 冬場を迎え、落葉で肌が現れ、少し寒そうな木々の様子を見ると、枝の各所に、マフラーを纏まとったような緑色のかたまりが目につきます。時折なにかがそこから飛び散ります。ヒョンノミ。そう、このあたりで呼ばれている「ヤドリギ(宿り木)」の実のことなのです。万葉集に収められた大伴家持の歌に、「あしひきの 山の木こ末ぬれの ほよ取りて かざしつらくは 千ちとせ年寿ほくとぞ」(巻18・4136番)と詠まれた「ほよ」とは、ヤドリギ。後世「ヒョン」と呼ばれるようになった常緑の木なのです。梢こずえのホヨを髪飾りとするのには、千年の長寿をお祝い季節により彩を変化させる五十鈴川河畔の木々。清流に寄りそう風景は、私たちにやさしく心の静けさをさずけてくれます。1.五十鈴川のヤドリギとイチョウ並木 (伊勢市 宇治)イチョウ並木

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